東京高等裁判所 昭和42年(う)179号 判決
被告人 宇井光治
〔抄 録〕
所論は、原判決は、その判示第一の二の事実において、「被告人が、昭和四一年二月二六日午後八時五分ころ、呼気一リツトルについて〇・二五ミリグラム以上のアルコールを保有した」旨の事実を認定したうえ、その証拠として司法巡査作成の検知試験結果報告と鑑識カードとを掲記しているが、右二つの書面によれば、被告人が鑑識されたのは、同日午後一〇時二五分ころのことであつて、本件の交通事故が発生した後二時間二〇分をすぎてからのことであり、しかも、その結果は、呼気一リツトルにつき一・〇〇ミリグラム以上のアルコールを身体に保有したと記載されている。しかるに、原判決挙示の証拠によれば、被告人は、右月日の午後六時ころ、伊藤暁阿方に立ち寄り、同所で右伊藤とともにビールをコツプ三杯位飲んだ後、同家を辞したのは、同日午後七時三〇分ころであることが認められるので、飲酒終了後約三時間を経過した後に、被告人は鑑識されたものであることが明らかである。かかる状況のもとにおいては、被告人が、特種な異状体質でないかぎり、ビールをコツプに三杯位飲み、約三時間も経過した後に検知した結果が、一・〇〇ミリグラム以上あるというのは、とうてい考えることができないので、前記の鑑識結果は信用することができないから、原判決の判示第一の二の事実には、事実の誤認があるという旨の主張に帰する。
そこで、所論にもとづき本件記録を調査して審案するに、原判決挙示の証拠によれば、被告人は、昭和四一年二月二六日午後六時すぎころ、千葉県旭市江ケ崎一、〇九八番地の伊藤暁阿方に立ち寄り、同所で、右伊藤とともにビールをコツプに三杯ないしビール普通びん一本を飲んだ後、同日午後七時三〇分ころ同家を辞し、原判示軽四輪自動車を運転し、同日午後八時五分ころ原判示の場所において、本件交通事故を惹起したのであるが、同日午後一〇時二五分ころ右事故現場において、司法巡査が検知管により酒気帯びの程度を鑑識したところ、被告人は、呼気一リツトルにつき一・〇〇ミリグラム以上のアルコールを身体に保有していたという結果報告書が作成されていることを認めることができるけれども、被告人が、右事故を起した日に、右伊藤方でビール一本を飲んだほか、他の場所で、さらに酒類を飲んだことを認めるに足る証拠資料は、原裁判所において取り調べた証拠を精査し、当審の事実取調の結果に徴しても、まつたく存しない。そして、道路交通法施行令第二六条の二にいう呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラムの酒気を帯びたアルコールの状態は、一般的には、通常人がビール一・四本を五分間で飲んで、三〇分を経過した状態であるとされており、当審鑑定人及川智正作成の鑑定書中の鑑定結果によれば、本件記録に現われた状態と同様の状態において、被告人にビール普通びん一本を飲ませた場合、飲酒検知管による呼気中アルコール濃度の指示量は、飲酒後三時間前後においてばかりでなく、三〇分前後においても、一リツトルにつき〇・二五ミリグラム未満であつたことを認めることができる。してみると原判決が、その第一の二の事実において、その挙示する他の証拠と対比して措信することのできない前記司法巡査作成の検知管試験結果報告と鑑識カードを除外しては、同事実を認定することができないにもかかわらず、右二つの証拠書類を信用して右第一の二の事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるものというべきであるから、この点に関する論旨は理由がある。
よつて、控訴趣意第一点(法令の適用の誤の主張)および同第三点(量刑不当の主張)に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七、第三八二条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い被告事件について、さらに判決をする。
罪となるべき事実
原判決の判示第一の一の犯罪事実を引用する。(ただし、「酩酊して」とある部分を除外する。)
証拠の標目
原判決の掲げている証拠を引用する。(ただし、司法巡査の検知管試験結果報告、司法巡査の鑑識カードを除外する。)
法令の適用
被告人の本件所為は、刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するので、所定刑中禁錮刑を選択し、その刑期範囲内において、被告人を禁錮六月に処し、原審および当審における各訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に負担させないこととする。
なお、本件公訴事実中第二の被告人は、前記日時、前記場所において、呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、前記車両を運転したとの点は、前記のとおりその犯罪の証明がないから、刑事訴訟法第三三六条により被告人に対し無罪の言渡をする。
(飯田 吉川 酒井)